濱素紀氏名車を語る その4      

Delage-D 6

筆者略歴

濱素紀  1927年生まれ、東京都武蔵野市在住 

・1953年 東京芸術大学美術学部工芸科鍛金部卒業

・1955年 同工芸計画科修了

自宅に、濱研究室を開催、日本でFRPの成型法を

マスターした初期のひとり。

・1964年から1998年まで東洋大学工学部機械工学科と建築

学科で、デザイン論、美術史などの講座を担当。

・1974年から1998年まで名古屋芸術大学美術学部デザイン科で

FRP成型法 を教える。

Delage-D6

<ドラージュ社の発祥>

 フランス人、ルイ・ドラージュは以前プジョー社で働いていた。1905年にド・ディオン・ブートンのエンジンを利用した小型車から自動車作りを始めた。当初からレースに興味を持ち、ヴォアチュレット(小型車)レースにエントリーしている。

ドラージュの生産工場は、パリの西北の、セーヌ川に隣接するクールブヴォアに1912年以来あり、1935年ドライエ社に吸収されるまでこの地で生産を続けた。D-6-65はこの地での最終生産車のひとつとなった。

パリ郊外セーヌ河畔の町
クールブヴォアの市章
クールブヴォア(ク-ルブヴォワ(Courbevoie 発音例)はフランス中央部、イル・ド・フランス地域圏オー=ド=セーヌ県の都市である。都市再開発地区のラ・デファンスの一部を形成し、就業人口が多い。面積が狭いため人口密度も高い。 点描画で有名なジョルジュ・スーラの作品、「クールブヴォアの橋」が描かれた場所でもある。 地名はラテンの「curva via(曲がった道≒curved way)」に因む。

<ドラージュとレース>

ドラージュはレーシングメーカーになった訳ではないが、多種にわたってレース仕様のエンジンを作り、レース参加して好成績を上げている。

 1911年にはクープ・デ・ロート(自動車杯)で1位・3位の成績を上げている。 また1913年、ルマンで行われたフランス・グランプリには、6.2リッターという大排気量の4気筒エンジンのレーサーで出場、優勝と2位、5位を占めるという優れた成果を上げている。また翌1914年にはこのレーシングモデルでアメリカのインディアナポリス500マイルレースで優勝という快挙を成し遂げている

インディアナポリス500マイルレース優勝車とドライバーのルイ・トーマス

そしてドラージュの名前を最も高め、拡げたのは1927年のグランプリ優勝のことだろう。 1.5リッターという小排気量で8気筒ツインカム、スーパーチャージャー付きのエンジンで、年間で5回の主要グランプリを制覇したという偉業をたてている。

<ドラージュのデザイン>

筆者は徳太郎が持っていた自動車雑誌でこの車の姿を見ている。最も好きなデザインだと思った。

ボディ先端のラジエータは60度ぐらい後ろに後傾している。そこから長くまっすぐに伸びたボンネットに続いている。またドライバー用シートはリヤアクスル近くに置かれ、そのボディのタイヤの高さスレスレほどの低さとともに、レーシングカーの目的に徹したストイックなものである。

 一方レーシングカーばかりでなく、レースの経験で培った高性能エンジンを付けたシャシーに当時の最もハイファションなコーチビルダー、フィゴーニー、ソーチック、ルトルヌ・エ・マルシャン、シャプロンなどが粋を凝らせたデザインのスポーティセダンも多く作っている。それらは完全にフランス的なセンスの洒落た姿で、世紀が新しくなった現代でも均整がとれた個性の強い美しさは、見飽きることがない。

ドラージュ・D6-60

133インチ(3.378mm)のシャシに6気筒エンジン(エンジン排気量2678cc最大出力60HP/4000rpm) を載せ、1934年に発売。日本自動車博物館展示車

<この車の履歴と濱徳太郎>

博物館の展示車は戦後間もなくの頃、太田朗さんが所有していた、D6/65という型式である。

 徳太郎はこのドラージュを1955年頃太田さんから譲り受け良く運転していた。生産後約20年間使われていたこの車は全体的にいくらか痛みがあったが、外装部分はすべてオリジナルで、良い姿を保っていた。大きい事故での損傷を受けていなかったのが幸いだった。

修復前のドラージュ

徳太郎はこの形を大変好んでいたが、60歳半ばを過ぎたころから体が弱りほとんど家を出なくなったので、このドラージュもガレージに入れたままとなった。それでも気分の良い日にはガレージに行ってボディにかけてあったホコリよけの布を持ち上げ、そのボディデザインを眺めることがあった。 

 徳太郎にとって、自分の好む車が綺麗に手入れされ、いつでもエンジンが回って走れる状態であるのが理想だったのであろうが、それが自分と同じように中身は弱っていても、依然と同じ美しい姿を見せて、自分が良いと思う造形がそこにある、ということで十分満足していたようである。

                  次回に続く 

     

<日本自動車博物館 展示車のご紹介>

ドラージュD6-60

                        

ドラージュD6-65、ヴァリエーション1

ドラージュD6-65、ヴァリエーション2

以 上

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