デザイナー 梅田晴郎
筆者略歴
元トヨタ自動車デザイナー・鹿児島大学教授を経て現梅田晴郎 事務所主宰
1943年 埼玉県生まれ1966年、東京教育大学教育学部 芸術学科卒業。 同年トヨタ自動車工業株式会社入社。デザイン開発部署にて , 「マークⅡ」「スターレット」「セリカ」 「MR2」「コロナ」等の外形デザインに携わる。1987年、デザイン企画業務を担当。1990年トヨタ東京 デザインセンターにて、担当部長として、デザイン企画、デザインマーケティング業務他を担当。1998年鹿児島大学教育学部美術科及び大学院教授。2005年より現職。
7、グッド・ライク・ラブ 1999年4月25日
商品はグッド(GOOD)、ライク(LIKE)、ラブ(LOVE)と、3種類に分けると理解しやすい。
グッド商品とは欠点の少ない商品で、なんとなく選ばれ、生活の中では空気のような存在となる。車でいえば普通のセダン。ライク商品は、なぜこれを買ったかを得々と説明できるような特徴のある商品。車でいえばRV車。そしてラブ商品とは多くの欠点があるのを知りながらもほれ込み、買ってからもドキドキしているような商品。例えばオープンスポーツカー、極端なのはフェラーリである。
グッド商品は現状の生活を維持するのに必要な商品で、解決すべき問題点も明確だから、開発に際しても開発側の努力で何とかなる。結果、欠点はないが特徴もない、似たような商品が各社から売り出される。数多く売れても、空気だから話題にならない。
対極にあるラブ商品は欲望充足型。その商品との出会いで、自分でも意識していなかった欲望に目覚める。機能性よりも情緒性であり、持つことによって生活もイキイキとしてくる。
しかし、この手の商品の開発と販売はかなり難しい。機能性を超越しているだけにデザイナー、設計者、経営者の努力だけでなく、個人の資質、人間的スケールさえ問われる。数値による評価や、特徴を伸ばすことより欠点つぶしを得意とする日本人には苦手な分野である。
だから、日本ではこのラブ商品の不足分を輸入品、車では外車がカバーしている。特に一昔前の外車はアクが強く、価格も高く不具合も多かった。しかし、それを所有するユーザーには故障を自慢する人すらいた。「朝見たらオイルが車の下に溜まっていてさあ、国産車じゃ考えられないよなあ」などと、大きな声で自慢げに話す。まるで恋人に迷惑を掛けられるのがウレシイような口ぶりである。ときには裏切られて後悔するだろうが、人生は豊かになる。
そうは言っても、身の回りの多くのモノはグッド商品にすべきだろう。そうでないと疲れる。そして、生活に精彩を与えてくれるのが、少数のラブ商品である。
「南日本新聞」 1999年4月25日付け より転載
次号に続く
*フェラリー 画像提供(撮影者)望月春希氏