「時空を超えて」 5

デザイナー梅田晴郎

筆者略歴

元トヨタ自動車デザイナー・鹿児島大学教授を経て現梅田晴郎 事務所主宰

1943年 埼玉県生まれ1966年、東京教育大学教育学部 芸術学科卒業。 同年トヨタ自動車工業株式会社入社。デザイン開発部署にて , 「マークⅡ」「スターレット」「セリカ」 「MR2」「コロナ」等の外形デザインに携わる。1987年、デザイン企画業務を担当。1990年トヨタ東京 デザインセンターにて、担当部長として、デザイン企画、デザインマーケティング業務他を担当。1998年鹿児島大学教育学部美術科及び大学院教授。2005年より現職。

「高齢化社会と車」  1999年3月16日 

 70~74歳と50~54歳の車の免許保有者数を比較すると、50代の方が圧倒的に多く、男性で2.5倍、女性では10倍の差がある。このデーターから20年後には高齢ドライバーが急増することが予測できる。逆に若年人口は減るから、高齢ドライバー比率はさらに大きくなろう。

 現在の高齢者は公共交通機関の利用を前提に家を取得し、生活している。しかし、今の50歳代から団塊の世代にかけては、自家用車の利用を前提に郊外に家を取得し、生活している人が多い。人口比率がとても高いこの車生活世代が20年後には70歳代になる。

 地方では車での移動を前提とした社会構造へドンドン移行している。日常の買い物も、町中の商店街から郊外の大型ショッピングセンターへ。人とのつき合いも隣近所から趣味のつながりなど、離れて住んでいる人とのつながりとなり、車での移動を必要とする。

 一方、公共交通機関として重要なバスの乗客数は、ここ20年で半減し、多くのバス会社は赤字に悩み、路線の廃止を検討している。この事態も高齢ドライバーの増加に拍車を掛けるのであろう。

 高齢化社会の自動車交通を考えると、まず事故の増加が懸念される。鹿児島県では高齢ドライバーの事故が10年間で2.5倍になったと報じられている。「高齢者安全教育」など、さまざまな対策がされているが、今後の事を考えると対症療法でない抜本的な手を打つべきではないだろうか。

 その一つが車の運転システムの見直しである。今のシステムは、五感と運動機能が正常、健康で、運転中は常に集中力のある健常者を前提につくられている。つまり、体調が悪かったら車の運転を控えなければならないのである。そして、高齢者は壮年の健常者に比べれると「常に体調がすぐれない状態」だといえる。

 最近の発想の中に「ユニバーサルデザイン」という言葉がある。健常者中心ではなく、老若男女、障碍者までの利用を考慮したデザインをという概念である。高齢者が多い社会での交通法規・道路・標識・交通マナーなど、車の構造そのものを含めた交通システムを、根本から考え直さなければならない時期にきている。

         「南日本新聞」 1999年3月16日付け より転載

日本自動車博物館提供、関連資料

   《ユニバーサルデザインの事例》

     ***人に優しい車***

1、ロンドンタクシ

ロンドンの曲がりくねった小路、小雨や霧の多い寒いロンドンの気候に合わせて市内を走るタクシーには、最小回転半径3.8mという規制が課せられた。また乗降しやすいようにリヤドアは90度に開き荷物は、左フロントドア・助手席を外し、たっぷり乗せることができた。(FX4以降は左フロントドア・助手席とも有となる)雨霧のため山高帽等、帽子を着用する人も多く、背高のボディデザインとして、お客様に優しいデザインとなっており、世界中の都市タクシーのスタンダードとなっている。

オースチンFX3 1948年~1958年  

       オースチンFX4 1958年~1998年  
LTITX4 2007年~ 31kwhのリチウム電池を搭載,130kmはEVでその後はエンジンで発電機を回して走る、レンジ・エクスティングシステムを採用し、接着式オールアルミボディをまとい、車いすでそのまま乗り込めるボディデザインとなり、人にも地球にも優しい車となった。  

註 上記3枚の画像はウィキペディア・ロンドンタクシーより転載

日本自動車博物館所蔵    オースチンFX4 1958年  

2、ユニバーサルデザインを取り入れた、トヨタ・ラウム

トヨタラウム(ラウムは空間の意味)は、1997年EX10型として初代が発売された。リヤドアを左右ともスライド式とし、その名の通り広い空間を実現し、乗りやすい・使いやすい・楽しいをキーコンセプトにセダンからマルチユーティリティーへの変革を打ち出した車である。またシリーズ全般を通じユニバーサルデザインにこだわり、2代目も(2003年)リヤドアのセンター ピラーがない、パノラマオープンウインドウを採用し、好調な生産を持続し、2011年の生産終了とともに、その思想を後継のスペードに引き継いだ。

「ドアを開けたら、みんなにやさしいクルマでした」 「ユニバーサルコンセプト、ラウム」の語り掛けで、始まるカタログ・・次ページには、 グッドデザイン特別賞「ユニバーサルデザイン賞」(平成9年) 受賞とあり、 小さな文字で・・ユニバーサルデザインとは?・・・・あらゆる人の使い勝手に配慮がなされた商品デザインを表彰したものとある。1999年11月のデータに基づくカタログ    
1998年データベースのカタログ。珍しく車両の絵がなく社名ロゴのみ。書き出しは「誰もがラクに楽しく使える」のキーワードから始まっている。
お年寄りや、体に障害を待った方でも乗り降り、しやすいウェルキャブ・・・トヨタの姿勢です、とある

  *トヨタ・ラウム、カタログは、高岡市在住 村川氏の提供による。

次号に続く

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