「時空を超えて」 4

デザイナー梅田晴郎

筆者略歴

元トヨタ自動車デザイナー・鹿児島大学教授を経て現梅田晴郎 事務所主宰

1943年 埼玉県生まれ1966年、東京教育大学教育学部 芸術学科卒業。 同年トヨタ自動車工業株式会社入社。デザイン開発部署にて , 「マークⅡ」「スターレット」「セリカ」 「MR2」「コロナ」等の外形デザインに携わる。1987年、デザイン企画業務を担当。1990年トヨタ東京 デザインセンターにて、担当部長として、デザイン企画、デザインマーケティング業務他を担当。1998年鹿児島大学教育学部美術科及び大学院教授。2005年より現職。

「批評しあうこと」

鹿児島大学教育学部美術科の卒業制作展が二日から七日まで、県歴史センター黎明館で開かれる。絵画、彫塑、工芸、デザインの作品と、美術教育、美術理論、美術史の卒業論文概要を展示する。

 学生にとっては社会に対して研究成果を発表する貴重な機会になる。特にデザインは一般の人々への提案であり、どれだけ賛同を得られるかどうかは評価の大きなポイントである。

 デザインは一人で山にこもってつくるようなものではない。さまざまな分野の人たちとの共同作業である。個人の発想がベースとなるが、レベルを上げていくためには人の意見を聴き、賛同と協力を得ていくことが重要になる。

 優秀なデザイナーは途中のアイデアスケッチを机の前に張り出して人の目にさらす。そして、通り掛かりの人の意見を巧みに取り込んで、自分のアイデアを補強し、強靭なデザインにしていく。それなりのデザイナーは出たアイデアを隠しておくからいつまでもひ弱なままで、結局はボツになってしまう。いずれにしてもコミュニケーション力は、デザイナーにとって不可欠な能力である。

 学生同士は「自分が言われて傷つくのがイヤだから、他人の作品も批判しない」と、お互いあまり批評はしないようである。大人の世界がそうなってきたから、子供の世界もそうなったのだろう。そんなコミュニケーションの乏しい社会は、貧しい社会に違いない。

 私の知人が「派手なネクタイをしてニューヨークの街を歩いていたら、その日三回も見知らぬ人から褒められて気分がよかった」と言うのを聞いてうらやましく思った。見知らぬ同士でもお互い口に出して批評することが、デザインのレベルを高めていくのであろう。

 経験の少ない学生は、学外の情報や評価によっても自分の作品のレベルアップを図っていかなければならない。卒業制作展でさまざまな人に見てもらうことは、卒業する本人のみならず後に続く学生にとってもよい勉強の機会になる。社会に巣立つ若者に率直なご批評、ご感想を聞かせていただきたい。

               「南日本新聞」1999年3月1日付け、より転載

次号に続く

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