「時空を超えて」 2

デザイナー梅田晴郎

筆者略歴

元トヨタ自動車デザイナー・鹿児島大学教授を経て現梅田晴郎 事務所主宰

1943年 埼玉県生まれ1966年、東京教育大学教育学部 芸術学科卒業。 同年トヨタ自動車工業株式会社入社。デザイン開発部署にて , 「マークⅡ」「スターレット」「セリカ」 「MR2」「コロナ」等の外形デザインに携わる。1987年、デザイン企画業務を担当。1990年トヨタ東京 デザインセンターにて、担当部長として、デザイン企画、デザインマーケティング業務他を担当。1998年鹿児島大学教育学部美術科及び大学院教授。2005年より現職。

「あふれるモノとインテリア」

 先日あった大学入試センター試験の「地理A」で、写真集「地久家族 世界の30か国のふつうの暮らし」(TOTO出版)からの出題があった。「家の中の物を全部、前に出して写真を撮らせてください」と貧しい国から豊かな国までの平均的な三十家族が、一家の家財道具と共に取材されている。

 ラジカセがやけに目立つアフリカの国、モノも多いが家も広いアメリカ、家族の多いキューバなど、他の国では家族が前面に出てくる。ところが、日本では狭い家にモノがあふれ、家族がどこにいるのかわからない。日本の生活は、それほどたくさんのモノに囲まれている。

 例えば、我が家ではお客さんが来ると、慌てて片付けを始める。インテリア雑誌の写真みたいになるよう、モノを隠すわけである。お帰りになると、また元の生活のしつらえに戻す。モノが多いことは、他人には見せられない恥ずかしいことなのだろうか。

 そんな疑問に「みんなそうなんだよ。安心しなさい」と、大きな声で言ってくれたのが、「TOKYO STYLE」(京都書院)。普通の人々のありのままの生活現場(インテリア)の写真集であり、インテリア雑誌やテレビドラマを見てコンプレックスを持つ人に、「なーんだ、みんな同じじゃないか」と思わせてくれる。

 テレビの影響は大きい。かつて私たちはアメリカのホームドラマで豊かなアメリカにあこがれてモノを買い続けた。今はテレビドラマでこぎれいで生活感の少ないインテリアを見せられて、そんな生活がいいのかなあ、と思っている。しかし、ドラマの小道具担当者が、今の日本の平均的インテリアを再現しようとしたら、気の遠くなるような種類と量のモノを集めて、レイアウトしなければならない。毎回のセットでの再現は不可能。だから、ドラマの部屋は、モノが少なくさっぱりしているのではないか?

 日本人の“豊な生活”のお手本になるようなドラマ。生活感があり、しかもあこがれられる部屋のしつらえ方、そこでの充実した生活の仕方を教えてくれるようなトレンディ―ドラマを期待している。

        南日本新聞 (1999年2月1日発行)掲載記事より転載

次号に続く

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