欧州車の原書を紹介
倉田 伸治
筆者略歴
倉田伸治 Kurata Shinji
輸入車ディーラー勤務を経て、1996年に自動車の洋書を専門に扱う書店「モービルライブラリー」を東京・御茶ノ水に開業。イギリス、フランス、ドイツ、イタリアの自動車専門書籍を多数輸入販売している。新刊の他、希少本、絶版本などを取り揃えヨーロッパ車の魅力を伝えている。
ご紹介書籍
Mercedes-Benz Heckflosse
1959-1968
最近、メルセデスベンツSクラスの新型が発表されました。個人的な話になりますが、私はSクラスの新型がデビューする度に、今回ご紹介させて頂く本に取り上げられているメルセデスベンツW111型を初めて見たときの記憶が甦ってきます。W111といってもピンとこない方もいらっしゃると思いますが、1959年に発表されたSクラスのルーツともいえる数世代前のサルーンで、テールフィンを持った通称“ハネベン”といえばわかって頂けると思います。
因みにタイトルの”Heckflosse”とはドイツ語でこのテールフィンを意味します。このメルセデスは日本で外車販売が入札制度であった1960年代の初頭に、多くの人が憧れる人気ナンバーワンの外車でした。それ故に幸運にも新車を購入出来た人はごく僅かであったと聞いています。
私は幼い頃のある日、とある場所でこのクルマを初めて見て触れることが出来ました。金庫のようにがっちり出来たボディとピンと尖ったテールフィンにいたく感動しました。多くの国のクルマがアメリカ発祥といわれるテールフィンを採用した中で、このメルセデスのデザインは、ほぼ水平に伸びたテールフィンからクロームメッキされたテールライト枠とバンパーに至るまで見事にベンツらしさを演出したグッドデザイン思いますが、皆さんはどう思われるでしょうか。
性能も素晴らしく、主力モデルの燃料噴射エンジン付き220SEでは172km/hの最高時速を誇りました。当時の日本ではこのクルマの性能をフルに味わうことは不可能でしたが、アウトバーン網の発達したドイツでは優秀な高速ツーリングカーと認められ、ヨーロッパの専門誌は、シトロエンDS、ジャガーMkⅡ、オペル・カピテーンあたりをライバルとしていました。
ドイツで出版されたこの本は、様々な場面で活躍し使われたテールフィン型のメルセデスベンツの姿を見せてくれます。4気筒モデルのW110型を含め、ファミリーカー、タクシー、要人の車などとても面白くノスタルジーに浸れる写真が沢山掲載されており、小さな本ながら楽しく見ることが出来ます。
役目が終わって廃車になったW111の写真も出ていますが、どこの国でも自動車に哀愁を感じるのは同じですね。後半は、このメルセデスのミニカーの解説に多くのページが割かれていて、これまた充実した数のモデルカーの写真解説で楽しませてくれます。本書のような懐かしさに満ちたクルマの本を読むと、タイムスリップして当時の時代に戻りドライブに出かけてみたくなりますね。
SCHRADER-TYPEN-CHRONIK: Mercedes-Benz Heckflosse 1959-1968
Motorbuch Verlag社刊/ドイツ語/95ページ/約23×24.5cm
価格:¥2,400(消費税込み)
次号に続く
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電話 03-3818-6108
担当:(倉田伸治)
日本自動車博物館展示車
以上