デザイナー 梅田晴郎
筆者略歴
元トヨタ自動車デザイナー・鹿児島大学教授を経て現梅田晴郎 事務所主宰
1943年 埼玉県生まれ1966年、東京教育大学教育学部 芸術学科卒業。 同年トヨタ自動車工業株式会社入社。デザイン開発部署にて , 「マークⅡ」「スターレット」「セリカ」 「MR2」「コロナ」等の外形デザインに携わる。1987年、デザイン企画業務を担当。1990年トヨタ東京 デザインセンターにて、担当部長として、デザイン企画、デザインマーケティング業務他を担当。1998年鹿児島大学教育学部美術科及び大学院教授。2005年より現職。
「マッサージ情報」 1999年6月7日
新しいモノをつくる“創造”とは、無から有を生むわけではない。さまざまな情報、知識の新しい組み合わせ方(編集)である。手近な情報だけを組み合わせれば模倣となり、離れたところの情報を組み合わせれば創造になる。例えば車のデザインでは、ほかの車からヒントを得れば「まねをした」と言われ、魚や鳥の形からヒントを得れば「独創的だ」と評価される。
大学でデザインを教えていて「創造の点からみると、学生の頭はコンクリートだ」と感じている。「先生の頭はなぜそんなに柔らかいんですか」と聞かれるが、組み合わせる情報を数多く、そして幅広く持っていて、その組み合わせ方、編集の訓練、経験を積んできたからである。学生には「常に好奇心を持ち、足を使って実感を伴った情報を集め、間違ってもいいから自分なりの判断を下していくように」と教えている。知識偏重だった学校教育では、好奇心や自分なりの判断はじゃまものにされてきた。
情報には「メッセージ情報」と「マッサージ情報」がある。メッセージ情報はハードな情報であり、新聞記事や法規などのように誰が読んでも同じように解釈できる。マッサージ情報は受け取る側が勝手に解釈して、自分なりに活用する曖昧で、ソフトな情報である。いわば頭の中をマッサージして、血の巡りをよくするような情報である。文化、特に芸術はこれにあたる。
このマッサージ情報が触媒や酵母となって、新しい組み合わせを生み出す。ハードなメッセージ情報だけを組み合わせても創造には至らない。コンピューターに創造ができないのと同じである。メッセージ情報は努力すれば得られるが、マッサージ情報は受け取る側に感受性が育っているかどうか問題となる。
「乾いた大地に落ちた種はそこで枯れてしまうし、石の上に落ちたら鳥についばまれてしまう。ところが肥よくな土地に落ちた一粒の種からは千粒の麦ができる」という言葉がある。種を情報に置き換えれば、そのまま当てはまる。
「南日本新聞」 1999年6月7日付け より転載
日本初のミッドシップのMR2のデザインでは、“日本の車らしい造形”で勝負したかったんです。
そこで、デザイン開発スタート時点で「M2ミーティング」と称する今までとは違った視点からの造形の研究を全員で行ないました。そのテーマの柱の一つが“日本の文化の調査・研究”で、その研究成果の“日本らしさ”をどう形に盛り込むかを試行錯誤しました。
“簡潔な造形”、“日本刀の凛とした形”などを意識したんです。
次号に続く