日本特有の自動車 発展史

筆者紹介

清 水 榮 一 (1942年7月23日 東京市生まれ)

略  歴
1965年 4月  日産自動車㈱入社 サービス部、宣伝部、販売部
1984年 6月  日産販売会社代表
1988年 1月  日産自動車(株)営業部主管
1991年 1月  ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル                           (株) 取締役
2001年 4月  モータリゼーション研究会主宰・片山豊氏執事
2007年 9月  日産自動車㈱アーカイブス活動 企業史キューレター
2019年 1月  日本クラシックカー・クラブ 監査役
2019年 4月  日本自動車殿堂表彰 準備委員

座右の銘
「独立自尊」

心掛けていること
「歴史の時代背景(社会・経済・外交・文化等)を大所高所から客観的に俯瞰すること」

関心の高いこと
・近代日本の企業経営史
・自動車のマーチャンダイジング
・クラシックカーのメカニズムとレストアー
・アメリカン・カントリー音楽、ハワイアン音楽、クラシック音楽
・絵画(水彩)

以 上

「日本特有の自動車発展史」
自動車史キュレーター 清水榮一

前田彰三氏の偉業に感謝
日本の自動車史を紐解くとき、まず脳裏に浮かぶのは、故・前田彰三氏の理念と功績だ。
前田氏は「自動車は多くの先達が大変な努力で開発した。国産化と敗戦後の苦境をバネにして勤勉に励んだおかげで驚異的な発展を遂げてきた。自分も商品の運搬で自動車に大変お世話になったので、その恩に報いたいと思う。旧い自動車を集めて蒐集し、皆さんにご覧いただいて日本の自動車文化を後世に伝えたい」と話す。強い理念と情熱を抱かれ、ついに1978年、日本で最初の大規模な私設自動車博物館を設立された。
それから40余年の月日が流れた今も、同館2階に設けられている前田氏のコーナーは500余台もの展示車と共に自動車文化の移り変わりを今に伝える大変貴重な情報発信源になっている。
僭越ながら、ここで前田氏の偉大な功績を忍びつつ、日本が世界に冠たる自動車立国になるまでの特有の自動車発展史を少しでもお伝え出来ればと思う。

(故・前田彰三氏と 2005年)

前章  日本特有の自動車発展史に“目から鱗”
私は“気ままな自動車フリーク人生”を過ごして来た。自動車メーカーに勤務していた現役のころにマーケティング戦略の企画や販売会社の最前線を経験した。系列会社で入社以来の宿願であった故・片山豊翁(元北米日産社長、自動車殿堂入り)をアドバイザーにお招きして執事を務める傍ら、翁や自動車史研究家の方々から大変貴重な自動車史を教えていただいた。

これらの活動を通じて、私はとても重要な点に気づいた。趣味の延長で自動車の歴史に接していた自分を反省した。前田氏も片山翁も異口同音に、「日本の自動車の発展は他の国々とは異なる。日本の経済、政治、外交、産業構造、社会、文化などと深い関わりを持って来た史実を掘り下げることが大切だ」と教わった。これこそ歴史研究の本質的な視点であり、この姿勢を大切にしていきたい。

コンテンツ  7つの日本特有の自動車発展過程
本年5月、30年続いた「平成」から「令和」へと新しい時代が幕を開けた。振り返れば明治、大正、昭和、平成の150年間、小国・日本は驚異的な経済発展を遂げた。このような例は他にない。

日本を発展させた強力なエンジン、自動車産業には発展過程で7つの特徴がある。自動車産業は日本経済を支える基幹産業(繊維、石炭、造船、鉄鋼、石油、化学、機械、電機など)と歩調を合わせて相互に影響しあって発展した。本稿ではその特徴を7つの章にまとめる。

第1章から第3章は自動車市場の成長過程で主に国の政策(マクロ)の視点から、第4章から第7章は成長を遂げた後に見えた課題について主に企業運営(ミクロ)の視点から、それぞれアプローチしてみよう。蛇足ながら私が自己名義にして溺愛した多くのクルマたちとの体験も織り交ぜながら。

①第1章 「農業国から工業国へ、20世紀初頭に大きく貢献した自動車産業」
②第2章 「国家総力戦の要、第2次世界大戦と自動車産業」
③第3章 「敗戦後の官民連携、行政指導と熱心勤勉な経営が支えた自動車産業」
④第4章 「日本経済の屋台骨、高度成長期に基幹産業を支えた自動車産業」
⑤第5章 「輸出から地産地消へ、安定成長期に海外投資にシフトした自動車産業」
⑥第6章 「グローバル化の中で、21世紀初頭に激変した産業構造と自動車産業」
⑦第7章 「新興国とともに、経済成長に大きく寄与する自動車産業」

また、各章では次の5つの項目を節ごとに触れる。
① 経済、政治、外交、産業構造、社会、文化などと自動車産業の関係
② 法律と国の行政指導
③ 自動車メーカーの主な動き
④ 自動車産業に貢献した人々
⑤ 私の自動車日記から

(参考文献)
日本経営史                              宇多川勝        有斐閣
日本の企業家史                            宇多川勝        文真堂
第一次世界大戦と日本                         井上寿一        講談社現代新書
昭和恐慌                      長 幸雄          岩波新書
昭和史が判る55のポイント           保坂正康          PHP文庫
戦時日本の企業経営               四宮正親         文真堂
日本自動車工業史稿               日本自動車工業会     国立国会図書館
通商産業省四十年史               通産省四十年史編纂部 通産資料調査会
欧米日 自動車メーカー興隆史          桂木洋二                 グランプリ出版
日本に於ける自動車の世紀            桂木洋二             グランプリ出版
日本自動車産業の成立と自動車製造事業法の研究  大場四千男          信山社
戦後日本の自動車産業                         山崎修嗣           法律文化社
日本自動車史写真・史料集                       佐々木 烈          三樹書房
日本自動車殿堂総覧 第一巻                      日本自動車殿堂          三樹書房
その他 自動車史関係の文献

 


(創業直後の日産自動車子安工場を視察する日本の自動車業界幹部  1934年10月 )

次回に続く

 

 

 

 

 

 

 

 

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