デザイナー 梅田晴郎
筆者略歴
元トヨタ自動車デザイナー・鹿児島大学教授を経て現梅田晴郎 事務所主宰
1943年 埼玉県生まれ1966年、東京教育大学教育学部 芸術学科卒業。 同年トヨタ自動車工業株式会社入社。デザイン開発部署にて , 「マークⅡ」「スターレット」「セリカ」 「MR2」「コロナ」等の外形デザインに携わる。1987年、デザイン企画業務を担当。1990年トヨタ東京 デザインセンターにて、担当部長として、デザイン企画、デザインマーケティング業務他を担当。1998年鹿児島大学教育学部美術科及び大学院教授。2005年より現職。
8、リズムの共鳴 1999年5月10日
モノが売れない。地域振興券も景気回復の起爆剤としては空振りか? といわれている。モノが売れないことを悪いとは思わないが、「ほしいモノがない」「ピンとくるモノがない」というのは不幸なことだと思う。
ふり返ってみると、高度成長期にはモノづくり産業やサービス産業と、モノを買う生活者の間にビシビシ響く共鳴が数多くあった。家電・テレビに始まり、乗用車、海外旅行と手の届きそうな範囲に「いつかはきっと」があった。
哲学者の中村雄二郎氏は著書「かたちのオデッセイ」の中で「ものごとの知覚や認知、そして理解・了承ということは、リズムの共振をなによりも前提とする。人と人の間でウマが合うとか、相性がいいとか、また勘が働くとかいわれるのは、そういうことではないだろうか」と述べてる。
人もモノも固有のリズムを発信していて、それが合ったとき“琴線に触れる”と言われるような共鳴(共振)現象が起こり、意気投合したり、商品を衝動買いしたりする。我を忘れての至福の時となる。
人はラジオの周波数を合わせるように、お互いに発信するリズムをチューニングしながら合わせることができる。相撲の立ち合いも仕切り直しを重ねるが、これもチューニング作業である。そして息が合った時にパッと立ちあがる。
初対面の人やモノに対して、瞬時に受け入れるかどうか評価・判断するのは、この共鳴現象の有無ではないか。商品の開発では市場調査として生活者の分析をするが、コンピューターを使っての分析に、この共鳴現象はなじまない。“カンピューター”と呼ばれる個人のカンに頼った方が、生活者との間に共鳴現象を起こし、ヒット商品を生む。ヒット商品開発の経緯が紹介される時、個人名でキーマンが登場してくるのはこれである。
「優秀なデザイナーは共鳴箱をたくさん持っている」といわれる。商品の開発にかぎらず、優れた人というのは相手のリズムに合わせられるチューニング能力に優れた人なのではないか。つまり相手のリズムに合わせながらものごとを考えていける人だと思う。
「南日本新聞」 1999年5月10日付け より転載
次号に続く