「もう一つの自動車史」1

   自動車史 キュレーター 清水榮一

はじめに

このシリーズは、「産業革命に続いて今日までの150年間に人々体験している最も大きな3つの革命 ①情報革命 ② エネルギー革命  ③モビリティ革命に於いて、自動車がどの様にかかわってきたか?インターネットやロボットとの関係などを始め、更に自動車に乗る時の服装やフッアション、また自動車の外観デザインの移り変わりや新しい機構の採用についても、記してみたいと思います。

   ・・・もう一つの自動車史・・・ 

1. 自動車の名称などなど

(1) 「自動車」の語彙・表現

・今日、人や物を載せて意のままに動く便利な個体を、我々は「自動車」或いは「Automobile」と呼んでいる事に何の疑問も抱かないが、今から130年前の19世紀末、自動車がやっと市民権を得るようになった頃には、その名称は実に様々な表現があった。

・広く知られている様に、「馬無し馬車(Horseless carriage)」はまさしく、その形状から表現された新しい名称だ。しかし当時の人々は自動車の発明を尊び、その後の活用方法に大きな期待を抱いていたので新しい別の名称を暗中模索していた。 

その一例として、「Motocycle」がある。1895年、米国で自動車レースが行われ、スポンサーのTimes-Herald新聞社が自動車の名称募集キャンペーンを行ない、「Motocycle」という名称が入賞した。MotoはMotorの意で「Motion(動き、活動)」、「Motive(動機、目的)」と「cycle(車輪、循環、同期、回転)」の合成語である。「自転車=二つの車輪=Bicycle」も広く知られる処だ。

・その後20世紀に入って自動車の普及と相俟って続々と新しい名称が生まれた。米国の例を幾つか記そう。

 「自動(Auto)」に因む名称が最も多いが、自動車の発明者(ニコラウス・オットー等)や原動力(ガソリン、蒸気等)や四輪車を表すものある。

  Autobat    Autocar    Autogen    Autocycle    Autogen     Autogo    Autokinet    Automotor   Autopher    Autovic    Buckmobile    Buggyaut    Clarksmobile     Farmobile    Gasmobile   Ipsometer    Lancarmobile   Motorwagon   Ottomobile     Pneumobile     Petrocar    Quadricycle   Self-motor    Steamobile    Trundler    Zentmobile

・1911年12月発売の米国のMotor誌に西欧諸国に於ける自動車の名称が掲載されている。概ね「Automobile」に極めて近い表現が定着しつつある状況が伺え、早くもグローバル化の動きも感じられる。

フランス~Automobile      スペイン~Automovil  

スウエーデン~Automobil   ポルトガル~Automobel

ドイツ~Automobil       オランダ~Automobiel

デンマーク~Automobil    イタリア~Automobili

・日本の漢字・「車」は象形文字で、荷車を上から見た構造を表わしている。自動車という文明の利器が日本に伝わる以前の「車」とは荷車、牛車、人力車を意味した。また「車」の発音は「クルクル回る輪」が源で、「輪」が「マ」に変化したと言われている。自動車産業の黎明期、1910年代に西欧から日本に自動車が伝わると、「自車」と表現する様になった。

ニンベンを伴う表現は「人の様に自ら動く」という処から来たのであろうか。当時の自動車関係者が、この素晴らしい乗り物に抱く畏敬の念を感ぜられるし、自動車そのものも生き生きとして人間臭く、大変好感を持てるのでは? 因みに、当時の東京新聞や報知新聞が掲載した記事や快進社(1911年創業)の案内書に記された工場名は「快進社自車工場」とある。

(2) 「社名」、「車名」、「グレード」の由来

・自動車はどの国でも大規模な主要な産業で、ユーザーにとっても高額な耐久消費財なので慎重に選択し大切に使用する点では各国共通だが、車名(商品ブランド)、仕様名(商品グレード)の冠し方は国によって異なり、その国の自動車産業の隆盛振り、自動車メーカーの販売戦略、ユーザーの嗜好等を反映している。

・自動車メーカー名は創業者の名前を冠したものが圧倒的に多いが、企業の目的、社会的使命や立地場所に因んだメーカー名もある。

    GM    (General・・・・・総合的、普遍的、将軍、万能な)

   BMW   (Bayerische MotorWerke・・Bayem地方の自動車工場

    いすゞ   (伊勢の国を流れる五十鈴川に因む由緒ある会社)

    日産    (持ち株会社「日本産業」の略称)

・欧米でも日本でも自動車黎明期にはメーカーの名称で表現した(例:「私はフォード車を買った」)。後に人々の生活が豊かになると、ユーザーの希望に沿う車種が増えたので、それぞれに車名(商品ブランド)を冠する様になった(例:「フォードからマスタングが発売された」)。更にマーケティングとマーチャンダイジングが進むに従って仕様名(商品グレード)が登場した(例:「マスタングのマッハⅠは速いね」)。

・車名(商品ブランド)や仕様名(商品グレード)は国情を色濃く反映している。モータリゼーションが進展する過程で、欧州は石造りの道路と家屋という環境下で小回りの利く自動車が、米国は広大な荒野を貫く道路を走る自動車が、日本では“お値打ちモノ”に見える自動車が好まれたようだ。

第一次世界大戦(1914~1918)以前、英国が世界の覇権を制していたが、戦後は米国にその座を譲った。自動車産業もフォードの量産体制とGMの上級移行マーケティング戦略が奏功して米国は世界一の自動車立国になった。日本では関東大震災(1923年)を機にバスやタクシーに米国フォードのノック・ダウン車を使い始め、第二次世界大戦で米国に大敗した為、自動車文化も米国の影響を強く受けた。1960年代半ばに「マイ・カー」と称する小型の日本車が登場。1970年代以降は走行性能の優れた欧州車が米国車に替った。

・欧州車の車名は概ね、自動車税課税クラス、エンジン排気量、ボデーの大きさと形状(例:セダン、クーペ)に基づいており、ほぼ型式の表現内容に近い。欧州は自動車の発明・普及の先輩国であり、伝統的な階級社会文化が垣間見える一方、米国車の様にユーザーの夢を連想する車名やグレード名は少ないが、最近は徐々に増えている。また車格別に各メーカーが得意な市場をシェアーしている傾向も窺える。

シトロエン2CV  CV・・・・・Cheval fiscal              l・・・馬力     fiscal・・・国税の

プジョー308   3・・・・・車体の大きさ(小型から大 型に向かって 数字が増える)        08・・・・・世代

オースチン・デボン    デボン・・・・・英国南西部の地域名称のちにケンブリッジ(東部)の名称も登場 

ルノー16    16・・・・・車体及びエンジンの大きさ(小型から  大型に向かい数字が増える)    

・ベンツ560SEL  5600cc  SE・・・・・Sクラス(車) L・・・・・ロング・ホイールベース

・米国車の車名は、特に1970年代の強大なアメリカ”を感じさせる。

1930年代以降、ユーザーの夢に対応する上級移行の商品体系となり、車名とグレード名共にハイラルキー化された。欧州とは異なり、自動車税課税クラス、エンジン排気量、ボデーの大きさと形状等を表すのではなく、文化的な生活空間や桃源郷を感じさせる合成語等々が冠せられた。

例えばGMの場合、装備・新機構と仕様の面では、最上級の車名がキャデラック、次にビュイック、その下がオールズモビル、続いてポンテアック、最後がシボレーといったハイラルキーで、販売価格もこれに比例している。一方、若い年齢層や低所得層への配慮も備わっており性能(モータースポーツ・イメージ)の面ではシボレーとポンテアックが一役買っている。また、グレードの設定では同じキャデラックでもラ・サール、フリートウッド、コンコース、セ・ビル等、多くの名称が時代の移り変りと共に設定された。

クーペ・ド・ビル 1957年
フリートウッド75 1960年
フリートウッドブロアム 1968年

・日本車の車名は米国の考え方を基調にしたものが多いが、きめ細かくユーザー心理を捉えつつ量販を志向した点が印象的である

・トヨペット   トヨタの小型乗用車と商用車の総称。多くの人から愛される車を目指した。 ペット・・・・・愛玩動物

・トヨエース   トヨタ商用車のエース的存在を目標にした。    エース・・・・・第一人者

・エルフ    キビキビ活躍する小型商用車を目標にした。      ELF・・・・・小妖精、腕白小僧

・セドリック     オースチンの後継車なので英国の小説・「小公子」の主人公名を冠した。Cadillacのスペルと発音にも似ている。 

・セドリック     オースチンの後継車なので英国の小説・ 「小公子」の主人公名を冠した。Cadillacのスペルと発音にも似ている。 

・三菱ふそう     岩崎家の家紋(三層の菱型)と山之内家(土佐藩藩主)の家紋(三つ柏)を合体して三つの菱型に。ふそう(扶桑)は古代中国伝説に於ける日本国の尊称。

・ニッサン・モコ   ボディ・デザインが丸みを帯びて“モコモコ”としている可愛らしいイメージ(女性向け)を尊重。

・スズキ アルト   ALTO・・・・・イタリア語(「優れた」「秀でた」)  「こんな車がアルト良いナ」との願望を掛けた商品開発の逸話も。

・ドイツ車、イタリア車、フランス車のブランド名を米語読みにする人は、昭和の時代から自動車に興味を抱いていた愛好家に多い。

当時、欧州車を好む人々も少なからず居たが、米国車の影響はかなり強かったのである。

(例)「MERCEDES BENZ」→「マーセデスベンツ 」「LANCIA」→「ランシ」     「DELAHAYE」→「デラへィ

300SL 1955年
ランチャ・ラムダ 1930年
ドライェ 1937年

・欧州(特に英国)と米国の間には、自動車の形状や部位、道路交通等の用語も異なる表現が散見される。

     英     国      米     国      英     国     米    国
Saloon Sedan Wings Fenders
Drophead Convertible Petrol Gasoline
Boot Trunk Luggage Compartment Road diversion Detour
Hooter Horn Roundabout Traffic circle
Windscreen Windshield Verge Road shoulder
Bonnet Hood Dual carriage way divided highway

―了―

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