自動車人と語る 第3回

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■伊藤修令氏 1937年広島県出身。’59年広島大学工学部機械工学科卒業。同年富士精密工業(株)入社。車両設計課に配属以来、日産合併後も’89年式R32まで歴代スカイラインの開発に携わる。R32主管として、GT-Rを復活させたスカイライン中興の祖として著名。その後オーテック・ジャパン常務取締役など歴任。

文/塚原大蔵

はじめに

●2019年10月、今年はモーターショーが開催されました。スカイライン開発者として著名な伊藤修令氏ですが、FF車両マーチや元祖MPVのプレーリーなど、革新的な車両の開発にも携わっていらっしゃいます。令和元年に開催された会場には、2020年に登場する新規格のマイクロカーが多数展示されました。中でもスイスに本社を置くマイクロリーノは魅力的でしたが、伊藤氏にはどの様に写ったのでしょうか? また、最近のクルマのデザインや今後のあり方についてお話しして頂きました。

■いつもの喫茶店にて

伊藤「どうでしたモーターショー?」

塚原「まるで原宿の女の子と話しているようでした」

伊藤「どういうこと?」

塚原「日本語だけどナニを言っているのか、まったく意味が分からない!?」

伊藤「アハハハ」

塚原「プレスデイには、評論家の三本和彦さんもお見かけしました。TVKの『新車情報』終了から14年経ちますが、お元気そうでしたよ」

伊藤「それは、良かったですね」(笑)

塚原「トヨタのブースはエキスポの未来館のような展示で、若者へのアピールが際立っていましたね」

伊藤「そうかぁ・・・・・・」

ストレートコーヒーを飲みながら

塚原「新車のデザインどうでしょう?」

伊藤「最近ね、僕はデザインについてデザイナーは何考えてるのかなぁ? パネル剛性を高めるとか理由はあると思いますが、いろんな細工がしてありますね。よくよく見るとどこか凹んで見えたり、僕は、ちょっとオカシイんじゃないかという気がしてさぁ」

塚原「ヘッドライトの目もツリ上がってますね」

伊藤「目ね!」

塚原「鉄道などの公共の工業デザインもツリ目ですよね。気持ちがなごまない」

伊藤「なんで最近はツリ目のデザインをするんだろうね?」

塚原「単に、デザイナーの世代交代によるものなんでしょうか?」

伊藤「あと、グリルね」

塚原「ギラギラしてますよね。それでいて各社フォルムに強烈な個性はないんですよ」

伊藤「どこも同じようなデザインでね」

塚原「ライトは尖ってないと、いけないワケじゃないでしょう?」

伊藤「どこも新車はキレイだとメーカー自身が言ってるけどさ、ホントにアレが良いと思ってるのかな? 面が捩れちゃってさぁ。どうして、ああいうデザインをするのか、僕なんかよく分からない」

塚原「デザイナーには、理屈はあるんですよ」

伊藤「僕は、機能が裏付けられたデザインというのは許せるんだけど、機能を全く無視したデザインには否定的ですね。デザイナーから理屈っぽい説明を良く受けたんだけど、それが本当に市場で受けるかは分からないんですよ。デザイナーが良いと思っても、他人様に受け入れてもらえるか分からないデザインを、商品として押しつけちゃダメだというのが僕の考え方なんです。デザイナーには『僕にもう言葉で説明するな』といったことがあります。見る人が説明なしで納得すれば、それが良いデザインで、デザイナーがいかに良いデザインかを説明して押し付けるものじゃないんですよ。美術館の絵画を見て、どう感じるかは見る人によって違うんだし。画家が見る人の横で、描いた時の気持ちなんて説明しないでしょ? 」

塚原「そんな美術館イヤですよ」(笑)

伊藤「デザインは見る人によって好みは様々で違うんだから、美しいと感じる人と嫌いだという人が、両方いて良いんだと思うんだよね。歴史を見れば、デザイナーが考え抜いても受けないデザインの車はあるわけで、ただ商品としてマスマーケットだから難しいんですよ」

塚原「どれも、いま風なデザインなんですが」

伊藤「時流というのはあるんだろうけど、いま風ってなに? と聞きたい」

塚原「ハヤリ、スタリを考えて作った、いま風ですからね」

伊藤「そう、機能を感じさせるデザインじゃないんですよ」

塚原「そう言われるとVW up!のデザインは、やっぱり今でもドイツ的ですね。あっさりとシンプル」

伊藤「つまらないという人もいるかも知れないけど、オーソドックス。奇抜なら良いという物でもないし、自動車というのは大衆商品ですからね」

塚原「最近のデザインは生命感も乏しい」

伊藤「そう、そう、ハコスカには勢いがあって良かったんです。サーフィンラインは、実はユーザーがアレを擦っちゃってクレームもあったんですよ。三本和彦さんにも『余計な物付けて』と叱られたけど、あれはスカイラインのアイデンティティですからね」

塚原「デザイナーの森典彦さんも、『車体に泥を跳ね上げない利点もあった』と語っています」

伊藤「僕は、新しい物を否定しているわけじゃないんです」

塚原「1930年代から60年代にかけてピニンファリーナに限らず、自動車に『美』があったんですよね。21世紀のデザイナーが、自動車デザインとして積み重ねた歴史を受け継いでいれば、時流の影響を受けつつも、必然的にマニアックかつ美しい造形になると思うのですが」

伊藤「そういうのは、学校で教えないのかな?」

塚原「日本自動車博物館に通えばいい(笑)、ビートルのように普遍的に愛されるデザインには立ち返れないものか? MINIはSir・アレックス・イシゴニス氏、FIAT500はダンテ・ジアコーサ氏いずれもエンジニアによるデザインですよ」

伊藤「クルクル、目先を変えるのが良いとは思わないし」

塚原「格好イイのではなく、優しいデザインという発想をしてもらいたい」

伊藤「レトロなデザインを望んでいるんじゃないんだけどねぇ」(笑)

ブレンドコーヒーを飲みながら

塚原「2020年は、新しいマイクロカーの規格が出来るようです。最高速度60㎞/hで4人乗り。電気で動く」

伊藤「電気が動力源になるのは、必然性があると思うけど」

塚原「新しい規格は、軽自動車業界に配慮して棲み分けを考慮した決め方をして欲しくないですよね。高速走っちゃダメだとか」

伊藤「そういう考えが入っちゃダメだよね」

塚原「新規参入も増えるから、既存の軽メーカーと競争になる」

伊藤「軽自動車と競走できるマイクロカーでも良いよね」(笑)

塚原「これがトヨタ。マイクロコミューターとして無難なデザイン」

伊藤「そうだねぇ」

塚原「FOMMはもうタイで作ってます」

伊藤「こんなに水に入っちゃっても大丈夫なの?」

塚原「FOMMのコンセプトカーは、ハンドルを握るとアクセルONで、ペダルはブレーキだけ。暴走事故との関連は不明ですが、エンジニアの良心と知恵を感じます」

伊藤「こういうアイデアは良いかもしれませんね」

塚原「スイスのマイクロリーノがいちばん上出来で、2人乗り、動力はBOSCHのバッテリーでスピードは90㎞/h以上出ます。デザイナー・テストドライバーのMerlin Ouboter氏はポルシェ356に乗るエンスージャストです」

伊藤「やけに肩入れするなぁ(笑)。昔、イセッタ? がありましたよね。運転が楽しいとか、そういうクルマじゃないの?」

塚原「どこのマイクロカーもスピードは100㎞/h以上出るみたいですね」

伊藤「安全性は確保されてるんだろうか? このサイズなら、高齢ドライバーの事故が減るのかなぁ?」

塚原「ヨーロッパで、スクーター以上自動車未満のE7という規格があって、それをクリアしています。衝突試験は免除されるそうですが、極端に危険な車ではないそうです。欧州車として足下のペダルの位置も配慮してありました」

伊藤「こういう小さな車が街の中を沢山走り出した時の景色はどうなんだろうねぇ? 大丈夫かなぁ?」

塚原「ヨーロッパでは、都市内の移動用と割り切ってるみたいです。軽自動車は日本列島横断しちゃうから、そのあたりの感覚が、ちょっと違うかも知れませんね」

伊藤「移動手段としては非常に良いと思うんだけどね、クルマって、それしかないのかな? と思うと寂しいね」

塚原「その、ココロは?」

伊藤「我々がやってる頃は、車はとにかく運転して、乗って楽しいという感覚だったけど、今は自動で何処かに連れて行ってくれる道具になっちゃたのかなぁ? 車という存在がよく分からなくなってきましたね」(笑)

塚原「マイクロサイズでもクルマとして、運転する喜び、所有する喜びを感じられなければならないと?」

伊藤「そう、そう。決して、速く走ると言うことではなくてね」

塚原「トヨタのマイクロカーのデザインからは、それは感じられませんね」

伊藤「あぁ、そうねぇ」

塚原「日本製品のデザインって、若い人の感覚で、若い人に向けたデザインが多く感じるのですが」

伊藤「難しいね! 市場のどこを狙うかは」

塚原「メインは高齢者世代のハズですよ!」

伊藤「今までのクルマ作りでは考えたこともなかったけど、もっと発想を変えて、移動手段だけにとらわれない、運転する喜びとか、持つ喜びを感じられるようなマイクロカーができないかなぁと思いますね」

塚原「それは軽自動車では、ないんですよね?」

伊藤「ないですね。たしかに、スバル360はよく考えられてました。ただ、モーターショーのマイクロカーは、当時と同じように効率の良い移動手段を追求しているようで、発想に新しさを感じられないんだよね。もっと斬新で革新的な新しいクルマが生まれないかなぁ。モデルをこれだけ見ても、どれも買いたいと思わないねぇ」

塚原「伊藤主管を納得させるのは大変だなぁ」(笑)

伊藤「クルマそのものが小さくなると言うのは、必然的なんでしょうね。決して奇をてらった物じゃなくて良いんです。現実的で理屈に合った商品としてデザインされていれば。極端な話、クルマの形をしていなくても良いんです」

塚原「でもクルマは道具として、割り切りたくないですね」

伊藤「カーシェアってどうなんだろう。クルマに愛着は生まれないよね? 『愛車』なんて言葉、なくなっちゃうよね。やっぱり、エコでもミニマムでも持つ喜びは感じたい」

塚原「伊藤さんはレトロなデザインには興味はないんですか?」

伊藤「うん、あまりない。でも愛着はあるから、今でもR32は持っています。レトロって若い頃の自分に戻るということ?」

塚原「スタイルの一種としてレトロ調は定着しましたね。今でも日産のパイクカーFIGAROは世代を問わず評判良いですよ。もう一度、伊藤さんが主管としてマイクロカーを開発するとしたら、レトロなデザインにはしない?」

伊藤「うん、しない。どうせやるなら革新的にしたい」

塚原「スカイラインと同じように」

伊藤「そう、そう、スカイライン君ですよ。僕は、人に感動を与えられるような、みんなが喜んで、幸せになるようなクルマを作りたかったんですから」

塚原「では、そのスピリットで、革新的マイクロカーの登場を来年待ちましょう!」


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●1954年第1回全日本自動車ショーに出展された住江製作所のフライングフェザー。2020年は新企画マイクロカー元年になるのかもしれない。

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●1957年第4回全日本自動車ショーに出展された富士自動車のフジキャビン。マイクロリーノ社のMerlin Ouboterさんは日本の古いマイクロカーのこともよく知っていたなぁ。電動版フジキャビンを発売したら面白いでしょうね。クラウドファンディング募りましょうか?。

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●1963年に発表された元祖イタリー製のイソ・イセッタ。
 

●イソ・イセッタの3面図。

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●マイクロリーノの4面図

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●第46回東京モーターショーに展示されたマイクロリーノと右がエンスーのMerlin Ouboterさん、隣はお兄さん。持ち込まれたのはチューリッヒブルーの生産1号車で、ファブリックの屋根も開く。欧州価格は1万2000ユーロで邦貨で約135万円。大変魅力的。

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●乗用車1台分のスペースに3台停められるが、日本でこの駐車方法は取り締まりの対象かも?。技術の進歩と道路交通法の進歩はシンクロするのかしら?

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●これがトヨタの超小型EV。日本製新規格マイクロカーのお手本になるのか。

●クルマとして生命感が溢れたデザイン。スカイライン2000GT。

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