自動車人と語る

筆者紹介

自動車文化愛好家・塚原大蔵。八重洲出版「オールドタイマー」誌で歴史物を寄稿中。獅子座。

自動車人と語る      

第1回「自動車の暴走」について

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日本自動車史に残る名車の開発に第一線でご活躍なさった歴史的な開発者達と、お話する機会に恵まれます。勿論お仕事としてですが、とても幸せです。

 一台のクルマの開発に、エンジニア、デザイナー、メカニックなど様々な立場で多くの方が携わっています。

 クールにお仕事として捉えていた方もいれば、自動車が好きで、好きで、お仕事に携われていた方もいます。お話をしていて、楽しいのは勿論後者の方です。

 歴史的な車両の開発当時の秘話や情熱を伺うのが本来の目的なのですが、本題から外れて、自動車の文化や、使い方、今の車社会のことについて話が脱線することも、ママあります。

 皆様定年はとっくに過ぎておられるが、やはり自動車から離れられないようです。

 取材でお会いした伝説の自動車人の方々とのお話から、自動車のことだけでなく、自動車文化のこともご紹介させて頂こうと思います。

暴走の何が原因か?

 お話を伺う開発車の方々は皆様、当然紅葉マークを付けている世代です。それだけに、高齢ドライバーによる自動車の暴走問題は、切実に感ずるところがあるのでしょう。どなた様も加害者にも被害者にもなりたくはないでしょう。にもかかわらず避けたいと思いながらも、起きているのが交通事故です。また限定的ですが暴走事故を防ぐセンサー装備もデンソーから販売開始されました。しかし設置できる車両が最近のトヨタ車に限定されるなど、万全ではありません。

 現代の自動車産業において、自動運転はそう遠くない未来のようです。しかし日々の現実として、今日の暴走事故をどう防ぐかも、結構差し迫った問題のはずです。

 この話題になると世間では、「自主返納」という言葉とともに、高齢者から免許証を取り上げる。という傾向になりがちです。はたしてこれは高齢者の意見なのでしょうか? それほど田舎でなくとも、日常生活に必要なお買い物は、大型ショッピングモールでする世の中です。病院への通院や家族の介護、それに身体機能が衰えたり、体にハンディキャップのある人にこそ、移動手段として必要なのが自動車でもあるはずです。

 また特に地方ではバス鉄道の便が限られるため、日常生活に不可欠な存在であり、より切実な問題なのではないのでしょうか?。

 では、せめて高齢ドライバーの暴走事故を防ぐには、どうしたら良いのでしょう?

ペダル位置の確認をオススメする

 プリンス自動車工業でスカイライン、グロリア、御料車のデザインを手掛けたデザイナー森典彦さんに、この問題を聞いてみると、興味深い話がでてきました。

「暴走事故があると、すぐに運転手の責任だと言われるけど、僕に言わせれば自動車が原因ですよ」(森さん)

 1960年代に、イギリスの小型車や元々左ハンドルのヨーロッパ車が、右ハンドルにして日本に輸入されてきた時、真上からみてハンドル軸とシートが車の進行方向に対して平行ではなく、車体中央に向けて少し斜めに角度を付け、取り付けられていたという。ドライバーがシートに座り、まっすぐ投げ出した右足の先に、アクセルペダルがなかったというのだ。

「自然にまっすぐ伸ばした右足の先に、アクセルペダルがあるのが危ない。ペダル類の位置を少しずらすだけで、ずいぶん変わると思う。二つのペダルを少し右にずらしし、右足の前にブレーキペダルが来るように配置するのです。しかし小さな車ではホイルハウス(車輪おおい)の出っ張りがじゃまになって設計上むずかしい。そうかといってシートを左にずらすのも車室が狭くなるからやりたくない。そこで考えられるのが、一部のヨーロッパ車がやっていたようにシートをハンドル軸といっしょに左方向に角度をつけるのです。少しの角度ですから運転していて不自然さは感じません。こうすれば一番踏みやすいのがブレーキペダルになり、事故を起こしにくくなるのではないでしょうか。今の日本の多くの車では、とっさの場合に気が動転して、慌てて踏み間違えるのが原因で、暴走してるのですから」(談)

 ちなみに、森さんが今使用している某車は、シートに座った両足のほぼ真ん中にブレーキペダルが配置されている。森さんはこれが危険なペダルの位置であることを自覚して、もはや習慣として(上から見て状態で)シートに座り、足先が車体の中央側に向くように体を少し斜めにずらして運転しているそうです。これにより右足の前はブレーキペダルになります。アクセルペダルは意識的に足を車体外側方向へ出さなければ操作できません。

「ちょっと不便ですか? そんなことより、ブレーキのしやすさは命の問題ですからね」  

 森さん流の事故防止運転法である。

「ずいぶん前に、ある自動車会社の人にこのことを言いましたよ。そのときは『お客から、そういう要望はきていません』で終わりましたね。今のクルマ雑誌はそういうこと問題にしないの? 」

 森さんは’60年代に人間工学と称して、外国車を研究していたメーカー各社は、このことに気が付いていたハズだといいます。

「自動車会社はセンサーなどで暴走を防がなくても、その位置を少し換えるだけで、暴走が起きにくいペダル配置を開発することは、十分にできるはずだと思う。しかもこれなら一円もかからない」

  歴史的自動車人によるちょっとした知恵を生かし、日本自動車工業会などで、全ての車両のペダル配置を調査してみる「意味」も「価値」もあるのではないでしょうか? 安全と思えるペダルの適切な配置位置は割り出せると思うのですが・・・・・・。

事故防止の自衛手段

 かつてボルボは、社会的に自動車の安全性が問われる以前から、自社製品による死亡事故減少に真剣に取り組み、商品化してきました。自動車の安全性を社会の問題として捉えて、行政も民間企業に協力しました。こうなると国民性と政治の話にもなります。

 ボルボが空飛ぶレンガとして速かったのはツーリングカーレースだけではありません。事故現場には警察よりも速く到着して、事故原因の調査をしていたのです。

 事故の衝撃による死亡事故を減らすことを目的とした車両開発と同じように、ペダル配置などのチョットした工夫により、暴走事故が起きにくい構造の車両開発は出来るのではないでしょうか? 

 そして自動車愛好家は、マシン性能だけでなく、こうした安全性への積極的な設計姿勢にも強く魅力を感じるものであります。

 「自動車の暴走事故」は、日本ではメーカーも行政も使用者の問題としています。自動車の構造上の問題としては捉えられてはいません。

 ゆえに、事故を未然に防ぐ自衛手段として、ドライバーの年齢に関係なく、今回ご紹介した森さん流の事故防止運転法にチャレンジしてみては如何でしょうか?                                  次回に続く

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